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大阪地方裁判所 平成4年(ワ)9188号 判決

原告

山田修一

被告

小川弘和

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して金一億四八〇八万八四〇九円及びこれに対する平成元年一二月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その三を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、連帯して金二億円及びこれに対する平成元年一二月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、自動車との衝突事故により負傷した自動二輪車の運転者が、自動車の運転者である被告小川弘和(以下「被告小川」という。)に対して民法七〇九条に基づき、運行供用者かつ雇用者である被告日進クラウン株式会社(以下「被告会社」という。)に対して自賠法三条(人身損害)、民法七一五条に基づき、損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実

1  交通事故の発生(以下「本件事故」という。)

(一) 日時 平成元年一二月四日午前八時五〇分ころ

(二) 場所 大阪市阿倍野区旭町一丁目二番先道路(市道尼崎平野線)上

(三) 加害車 被告会社所有・被告小川運転の普通貨物自動車(和泉八八す四〇八号)

(四) 被害車 原告運転の自動二輪車(四〇〇CC、なにわむ七六五九号)

(五) 態様 加害車が、西行き三車線のうちセンターライン寄り車線(第三車線)から左側車線(第二車線)に進路変更しようとした際、同車左側面後部を、左後方から進行してきた被害車に接触させ、原告を路上に転倒させた。

2  被告会社の責任原因

(一) 自賠法三条

被告会社は、本件事故当時、加害車を所有していた。

(二) 民法七一五条一項(一部)

被告小川は、本件事故当時、被告会社の従業員であり、同社の業務として加害車を運転していた。

3  損害の填補

原告は、損害の填補として、自賠責保険から二五〇〇万円、労災保険から治療費(平成元年一二月四日から同四年八月二八日までの分)二〇三四万五五九八円及び障害年金三五七万七四二五円、国民年金障害基礎年金一九一万二九一六円の各支給を受けたほか、被告らから治療費一三〇万〇二七五円(大和中央病院宛九万五三八〇円、富永脳神経外科病院宛一七万六九五五円、星が丘厚生年金病院宛五万五六二〇円、博愛城北病院宛九七万二三二〇円)、付添看護費九六八万一七四四円、休業損害三五二万五〇〇〇円、車椅子代四四万四六一七円、雑費三〇万円の各支払を受けた。

二  争点

1  被告らの責任(被告小川の過失)及び過失相殺

被告らは、原告の主張する被告小川の左後方安全確認義務違反の過失を否認するほか、大幅な過失相殺をすべき事由として、加害車が合図を出して徐々に進路変更したにもかかわらず、原告には、制限速度を時速三〇キロメートル超過したことのほか、加害車の合図の見落とし等の著しい前方不注視、無理な追い越し等の過失があると主張する。

これに対し、原告は、被告小川は、車線変更の合図を出さず、又、バツクミラーで原告を一度確認していたにもかかわらず、本件事故を惹起したと主張する。

2  損害額

原告の主張は、別紙一「損害額一覧表」並びにその引用する同二「交通費一覧表」及び同三「介護用品並びに改造費一覧表」記載のとおりである。

これに対し、被告らは、損害項目全般にわたり相当因果関係がないと主張して争うほか、特に次の点を主張する。

(一) 余命期間

原告には脊髄損傷特有の貧血があつたり、体温調節ができず、排便排尿障害があるので、平均余命を全うする確率は極めて低く、原告の将来請求はいずれも期間が長すぎる。

(二) 生活費の控除

後遺障害の内容からみて、原告の生活範囲は、通常人と比較して著しく限定されるので、逸失利益の算定にあたつては、原告の本件事故前の現実収入を考慮するほかに、三割程度の生活費控除をすべきである。

第三争点に対する判断

一  被告らの責任(被告小川の過失)及び過失相殺

1  前記争いのない事実と証拠(甲二、三の1、四ないし一一、一三)を総合すれば、次の事実が認められる。

本件事故の現場は 別紙四の図面のとおり、東西に通じる交通頻繁な市街地内の道路の西行き車線(南側の第一車線から順に幅員二・二メートル、三メートル、三・二メートルの三車線に区分され、制限時速四〇キロメートル、以下「本件道路」という。)上であり、本件事故当時は晴天で、平坦なアスフアルト舗装の路面は乾燥し、西行きの見通しは前後左右とも良かつた。

被告小川は、本件道路のセンターライン寄り車線(第三車線)を時速約四〇キロメートルで西進中、前方が渋滞し始めたため、左側車線に進路変更しようとし、同図面〈1〉地点付近で合図を出して左サイドミラーを一瞥したが、左後方に他の車両はないものと思い、以後左後方の安全を確認することなく、同一速度のまま同〈2〉地点付近でハンドルを左に切つて車線変更を始めたところ、同〈3〉地点で、左後方から中央車線(第二車線)の右端付近を時速約六〇ないし七〇キロメートルで同〈ア〉地点まで直進してきた被害車のハンドル右側部分に、加害車の左側面後部を接触させ、原告を路上に転倒させた。被告小川は、同〈4〉地点に至つた時、自車後方でガシヤンという大きな音がしたのを聞き、左サイドミラーで同〈イ〉地点付近を転倒滑走中の被害車を発見して、初めて接触の事実に気づき、同〈5〉地点に停車した。被害車は同〈ウ〉地点に、原告は同〈エ〉地点にそれぞれ転倒停止した。

右認定に反する証拠(甲六〇、六一、証人山田(一回))は、甲六、九、一一ないし一三に照らして採用しない(右事実から明らかなとおり、被告小川が車線変更の合図を出してから車線変更を開始するまでは約一・八秒であり、被害車と接触するまで約三・五秒しかなく、合図と車線変更との間に適切な間隔が確保されていなかつたものと認められる。)。

2  右認定の事実によれば、被告小川には、左へ車線変更するに際し、適切な時期に合図を出し、左後方の他の車両の有無を確認してその安全に十分注意すべき義務があつたにもかかわらず、車線変更の直前に合図を出した上、左後方の安全確認が著しく不十分なまま車線変更した過失が認められ(したがつて、被告小川は民法七〇九条に基づく責任を負い、被告会社は、前記争いのない事実2(二)と相俟つて同法七一五条に基づく使用者責任を負う。)、原告には、制限速度を超過した過失が認められる。そして、両者の過失割合は、被告小川が九割、原告が一割と認めるのが相当である。

二  損害

1  原告の受傷内容、治療経過及び後遺障害

証拠(甲三の2、3、一六ないし二〇の各1、二一ないし二三、六〇、一四一、一四二、一五七、一五八、証人山田(一、二回))及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

原告(昭和四七年六月一五日生、本件事故時満一七歳)は、本件事故により、頭部外傷Ⅱ型、頭部打撲挫傷、外傷性頚髄損傷、第五頚椎圧迫骨折、右第一指中手骨々折、両膝裂傷の傷害を受け、大和中央病院に救急搬送後、本件事故当日、大和病院へ転送された。四肢運動障害、知覚障害、呼吸筋麻痺を認め、頸推手術的治療及び人工呼吸器による呼吸管理等を受けて平成元年一二月一六日まで入院し、同日から同三年一月六日まで富永脳神経外科病院に、翌七日から同年九月二八日まで星ケ丘厚生年金病院に、同日から同四年八月二八日まで博愛城北病院に、同日から同五年三月二六日まで兵庫県立総合リハビリテーシヨンセンターリハビリテーシヨン中央病院(以下「リハビリテーシヨン中央病院」という。)に、同日から同年八月八日まで尼崎厚生会立花病院(以下「立花病院」という。)にそれぞれ入院(通算一三四四日間)してリハビリテーシヨンや自己導尿訓練を受けた後、同日退院し、以後自宅療養中である。四肢麻痺等のため星ケ丘厚生年金病院入院中からしばしば尿路結石を発症して手術を受け、神経因性膀胱による膀胱結石症と診断されている。再発の可能性が高いため、右退院後も高見診療所の往診(医師による週一回の診察と看護婦による週二回の膀胱洗浄)を受けるほか、医師の指示により、月一回大阪市立北市民病院へ通院し、現在に至つている(現に、平成六年一月にも同病院に約一週間入院して、膀胱結石の手術を受けた。)。

原告は、博愛城北病院入院中の平成四年五月二七日、第五頚髄節以下の完全麻痺、肩の外転と肘の屈曲以外の上下肢運動不能、両腕の付け根付近以下の知覚脱失、排便排尿障害等の後遺障害を残して症状固定した。右後遺障害の程度は自賠法施行令別表後遺障害等級表の第一級三号に該当し、本件事故以後将来にわたり常に介護を要する状態にある。

2  治療費(別紙一(1)) 二二五二万〇八七三円

(一) 本件事故日から平成四年八月二八日までの治療費は、労災保険給付分二〇三四万五五九八円と被告らの支払分一三〇万〇二七五円(大和中央病院宛九万五三八〇円、富永脳神経外科病院宛一七万六九五五円、星ケ丘厚生年金病院宛五万五六二〇円、博愛城北病院宛九七万二二三二〇円)の合計二一六四万五八七三円であること(別紙一(1)〈1〉)は当事者間に争いがない。

(二) カイロプラクテイツク費用(別紙一(1)〈2〉) 八七万五〇〇〇円

証拠(甲三四の1ないし5、六〇、検甲1ないし3、証人山田(一回))及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成三年六月二一日から同四年八月二五日まで吉見カイロプラクテイツククリニツクに通院して電気治療を受け、八七万五〇〇〇円を支出したこと、右治療は医師の勧めによるもので、腕の運動障害や知覚障害を改善する効果があつたことが認められる。

右によれば、同治療は、症状固定後の分も含めて、前記認定の症状の内容、程度に照らし、必要かつ相当なものであり、これに要した右費用は本件事故と相当因果関係があると認められる。

3  室料差額(別紙一(2)) 三八万三一六〇円

前記1で認定した事実に、証拠(甲二三、二八、証人山田(一回))及び弁論の全趣旨を総合すれば、重篤な前記後遺障害のため、原告は症状固定後も継続してリハビリテーシヨンを受ける必要があり、そのためには毎日二人がかりで原告を車椅子に乗せなければならず、博愛城北病院においては個室を利用せざるを得なかつたこと、原告には平成四年五月二八日から同年八月二八日までの室料差額三八万三一六〇円の支払義務があることが認められるので、右費用は、本件事故と相当因果関係ある損害と認められる。

4  付添看護費 一億〇二五五万五九八〇円

(一) 入院中の付添看護費(別紙一(3)〈1〉ないし〈7〉) 一三七一万八五二五円

前記1認定のとおり、原告は、症状が重篤なため、本件事故以来常時付添介護を要する状態にあり、そのため職業付添人を付した場合はその実費全額の、近親者が入院付添をした場合は日額四五〇〇円の各看護費を認めるのが相当であるところ、

(1) 証拠(甲六〇、証人山田(一回))によれば、原告が大和病院に入院していた一三日間は、医師の指示により、原告の母山田美保子(以下「美保子」という。)ら親族三名が、休業の上、交代で二四時間付添介護をしたことが認められ、前記認定の重篤な症状内容及び当時満一七歳という原告の年齢に照らせば、右付添看護のうち二人分は必要かつ相当なものと認めることができるから、この間の入院付添費は一一万七〇〇〇円となる。

4,500×2×13=117,000

(2) 証拠(甲六〇、証人山田(一回))及び弁論の全趣旨によれば、富永脳神経外科病院入院時以降は職業付添人に介護を依頼するようになり、平成四年三月三一日までの右費用として被告らが九六八万一七四四円を支払つたことは当事者間に争いがなく、これに加えて、原告の症状が重篤で介護に多大の労力を要することがら、職業付添人がしばしば辞めたり、付添人紹介所から家族が職業付添人と相勤(専属付添人二名による交代勤務)することを求められたため、美保子が、平成元年一二月一七日から同二年一二月二四日までのうち一二二日間付添介護せざるを得なかつたことが認められるから、その入院付添費は、五四万九〇〇〇円となる。したがつて、右合計は一〇二三万〇七四四円となる。

(3) 証拠(甲二九の1ないし9、六〇、乙九の1ないし7、証人山田(一回19、20項))及び弁論の全趣旨によれば、原告は、職業付添人費用(紹介手数料及び賃金)として、平成四年四月一日から同月三〇日までに三三万〇三〇〇円(日額一万一〇一〇円)、翌五月一日から同年八月二八日まで(うち同月一一日から一四日までの四日間は除く。)に一三四万〇九六〇円(日額一万一五六〇円)の計一六七万一二六〇円を支払つたことが認められる。

(4) 証拠(甲三〇及び五二の各1、2、六〇、証人山田(一回))によれば、原告は、リハビリテーシヨン中央病院入院当初の一六日間、医師の許可を受けて、午前九時から午後五時までの間、職業付添人に介護を依頼し、その費用(紹介手数料及び賃金)一二万九六一二円を支払つたことが認められる。

(5) 証拠(甲六九、九〇ないし九五の各1、2、九六ないし一二三、証人山田(二回))によれば、原告は、立花病院入院中の平成五年三月二六日から同年八月八日までの職業付添人費用(紹介手数料、賃金及び職業付添人用の寝具代)一五六万九九〇九円を支払つたことが認められる。

(二) 自宅療養中の付添看護費(別紙一(3)〈8〉〈9〉) 八八八三万七四五五円

前記認定の後遺障害の内容・程度と証拠(甲五三、六〇、八九、一三四、証人山田(一、二回))を総合すると、次の事実が認められる。

原告は、平成五年八月九日自宅療養を開始し現在に至つているが、これは、原告の症状が軽快し、入院の必要性がなくなつたためではなく、原告のような重篤患者の入院を許可する病院が少なく、三か月程度という条件付きの短期入院でも順番を長期間待つ必要があり(現に原告も前記のとおり頻繁に転院している。)、さらに、短期入院を際限なく繰り返すことは困難であるばかりか、療養上好ましくないことから、やむを得ず自宅療養に切り替えたものであつて、右状態は将来にわたつて継続すると考えられる。したがつて、将来とも一人ではほとんど動けず、衣服の着脱、食事、排便排尿、ベツドと車椅子との移動等の介助をはじめ、体温調節、床擦れ予防のための体位の変換等に昼夜を通じて常時きめ細かな注意と対応を必要とする原告を自宅で介護することは、責任と負担の極めて重いものであるところ、原告を介護できるのは母の美保子(同女は、従前、会社の経理事務を担当し、平成元年に四六七万二三二八円の収入を得て生計を維持していたが、原告の介護や後記発病のため平成三年五月二〇日退職し、以後は無職である。)だけであり(原告の父は原告の幼時に美保子と離別した。)、右のような介護を美保子だけで継続することは相当に困難であるから、本来は自宅においても職業付添人を必要とする状況にある。しかし、一般に職業付添人は、個人の家庭で就労することを好まない傾向にあつてその確保が困難であり、現に、美保子の募集努力にもかかわらず、原告宅で職業付添人を雇用できたのは後記五日間のみで、その余の期間は美保子一人で原告を介護している。ところが、美保子(昭和二四年一月四日生)は、平成三年一月四日くも膜下出血を発症し、頭部手術を二回受け、同年五月一一日退院後も、頭痛、ふらつき等の後遺症があるため、二週間に一回の通院を要するにもかかわらず、原告の自宅療養開始以降は、その介護のため通院できない実情にあり、さらに、前記のように、本来ならば、二四時間付ききりの介護はできない状態にあるから、今後、美保子が、精神的肉体的に負担の重い介護をいつまで継続できるかは予断を許さない状況にある。

右認定事実の下では、原告は、自宅療養を開始した平成五年八月九日(満二一歳時)以降、平均余命期間である五五年間(平成四年簡易生命表に基づき、年未満切捨て。)にわたり日常生活全般につき常時付添介護を必要とし、その費用相当損害額は、平成一一年(美保子の五〇歳時)までの六年間は日額五〇〇〇円、その後の四九年間は日額一万一五六〇円(前記(一)(3)参照)と認めるのが相当であるから、以上を基礎に、ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して将来の付添介護費の本件事故時における現価を算出すると、八八八三万七四五五円となる。

5,000×365×(7.9449-3.5643)+11,560×365×(27.1047-7.9449)=88,837,455(円未満切捨て。)

なお、証拠(甲一四六、一五二、証人山田(二回))によれば、原告は、平成五年九月六日から同月一〇日まで自宅で職業付添人の介護を受け、その費用(紹介手数料、賃金及び交通費)六万〇四四〇円(日額一万二〇八八円)を支払つたことが認められるが、右期間を含む長期間の付添介護費を前記のとおり算定したため、その差額については、慰謝料算定の一事情として考慮することとする。

又、原告の余命が右平均余命よりも短いと認めるに足りる証拠はない。

5  入院中及び退院後の雑費(別紙一(4)) 二六〇万九八五四円

(一) 入院雑費(別紙一(4)〈1〉〈2〉) 一七四万七二〇〇円

原告は、本件事故により前記認定のとおり六病院に通算一三四四日間入院したが、弁論の全趣旨によれば、この間、雑費として一日当たり一三〇〇円の支出を要したと認めるのが相当である。

1,300×1,344=1,747,200

(二) 退院後の雑費(入浴サービス利用料、別紙一(4)〈3〉〈4〉) 八六万二六五四円

前記認定の事実と証拠(甲一四九、一五〇及び一五一の各1ないし6、一五二、一六三の1ないし16、一六四の1ないし6、一六八の1ないし10、一六九、一七〇、一七六、一七七、一七八の1ないし12、証人山田(二回))を総合すれば、四肢運動障害等のある原告を入浴させることは美保子一人では不可能であること、原告は、平成五年八月一三日から同六年七月二六日までの間に社会福祉法人大阪市社会福祉協議会の移動入浴サービスを四四回利用し、その利用料として一回一〇〇〇円合計四万四〇〇〇円を支出したこと、同年八月以降も将来(原告の余命終期は前記のとおり平成六〇年と認められるので右時点から五四年間)にわたり、少なくとも、月三回の割合で同サービスを利用する蓋然性が認められる。そして、ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して将来の右利用料の本件事故時における現価を算出すると、八一万八六五四円となる。

1,000×3×12×(27.10-4.3643)=818,654

(円未満切捨て。)

したがつて、右合計は八六万二六五四円となる。

6  交通費(別紙一(5)) 四七九万三五〇〇円

(一) 別紙二交通費一覧表関係 一三一万九九四〇円

(1) カイロプラクテイツククリニツクへの交通費 一一三万五四二〇円

前記2(二)で認定した事実に、証拠(甲三五の1ないし7、三六及び三七の各1ないし3、三八の1ないし6、三九の1、2、4、5、四〇の1ないし5、四一の1ないし4、四二の1ないし5、7、8、四三の1ないし5、四四及び四五の各1ないし3、5、四六の1ないし6、四七及び四八の各1ないし8、証人山田(一回、26、29、30項))及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、平成三年六月から同四年八月までの間、電気治療を受けるためリフト付きタクシーを利用して吉見カイロプラクテイツククリニツクへ通院する必要があり、その費用として合計一一三万五四二〇円を支出したことが認められる。

(2) リハビリテーシヨン中央病院への交通費 一八万四五二〇円

証拠(甲三五の8、三九の3、四二の6、四五の4、四八の9、証人山田(一回、26ないし30項)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、星ケ丘厚生年金病院入院時からリハビリテーシヨン中央病院への入院を希望し、そのための受診や同病院への転院のためにリフト付きタクシーを利用する必要があり、その費用として合計一八万四五二〇円を支出したことが認められる。

(3) なお、原告は、右(1)(2)のほかに、入院付添や見舞のための近親者の交通費を請求するが、入院付添のための交通費は、前記4で認定した近親者の入院付添費に含まれるし、見舞のための交通費は、本件事故と相当因果関係ある損害とはいえない。

(二) 近親者の交通費(別紙一(5)〈2〉ないし〈4〉) 〇円

美保子が、平成三年三月七日から同五年八月八日までの間に見舞のため支出した病院までの交通費(リハビリテーシヨン中央病院分一万一八〇〇円、立花病院分四万九五五〇円)は、右(一)(3)のとおり、本件事故と相当因果関係ある損害とはいえない。

(三) 平成五年九月一七日の交通費(別紙一(5)〈5〉) 〇円

証拠(甲一四七の1ないし5、一五二、証人山田(二回))によれば、原告は、同日、散髪及びケースワーカーとの顔つなぎ等のために自宅からリハビリテーシヨン中央病院までタクシーで行き、その往復費用三万五三六〇円を支出したこと、医師の診察は受けなかつたことが認められる。

右事実の下では、右費用は、本件事故と相当因果関係のある損害とはいえない。

(四) 大阪市立北市民病院への通院交通費(別紙一(5)〈6〉〈7〉) 三四七万三五六〇円

前記1で認定した事実に、証拠(甲一五七、一五八、一六二、一六七の1、2、一七九の1ないし3、証人山田(二回))及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、平成六年一月に、同病院で膀胱結石の手術を受けた際に、医師から再発が予想されるため、向後月一回通院するよう指示され、同年二月から七月までタクシーで通院し、合計六万二五〇〇円を支出したこと、同年八月以降も将来にわたつて月一回の右通院を要し、その交通費は一回一万二五〇〇円を下らないことが認められるから、右六万二五〇〇円に、同年以降平成六〇年(前記余命終期)までの五四年間に必要な右通院交通費の本件事故時における現価(ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除)を加算すると、三四七万三五六〇円となる。

62,500+12,500×12×(27.1047-4.3643)=3,473,560

7  介護用物品費(別紙一(6)) 二五四万二三六三円

証拠(検甲4、11の1及び2、証人山田(一、二回))及び弁論の全趣旨によれば、自宅療養開始以降も原告の介護に必要な日常的消耗品(紙おむつ、セルフカテーテル、タオル、手袋、床擦れ防止用クツシヨン等)購入費用として月額九〇〇〇円を要すると認めるのが相当であるから、ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して自宅療養開始日(平成五年八月九日)

以降前記平均余命期間(五五年間)の介護用物品費(日常的消耗品代)の本件事故時における現価を算出すると、二五四万二三六三円となる。

9,000×12×(27.1047-3.5643)=2,542,363

(円未満切捨て。)

なお、原告は、入院期間中についても月額二万四六二〇円の右費用を請求するが、右費用の大半は前記5(一)の入院雑費と重複するので、残余については慰謝料算定の一事情として考慮することとする。

8  介護用物件(別紙一(7)) 四九九万九六〇七円

(一) ベツド及び付属品(別紙三1)

一四八万二一一九円

前記認定の後遺障害の内容に、証拠(甲一三五、一三六、一三八の2ないし5、検甲4、証人山田(二回))及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、自宅療養のため特殊寝台及びオーバーベツドテーブル等の付属品を終生必要とすること、平成五年七月ころ、これらを自己負担金四二万四八一〇円で購入し、使用中であることが認められ、右特殊寝台等の耐用年数は八年とみるのが相当であるから、右自己負担額に、平成一三年以降同六〇年(前記余命終期)までの間、八年毎に買換える(六回)費用の本件事故時における現価(ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除)を加算すると、一四八万二一一九円となる。

424,810+424,810×(0.6250+0.5+0.4166+0.3571+0.3125+0.2777)=1,482,119(円未満切捨て。)

なお、原告は、右ベツドと同時に購入したシーツ三枚とベツドパツト二枚の代金合計二万三六九〇円(甲一三八の6、7)及びその買換費用をも請求するが、右費用は本件事故と相当因果関係ある損害とはいえない。

(二) 車椅子(別紙三2) 五六万〇七六八円

前記認定の後遺障害の内容に、証拠(甲五〇の3、五四、八八、一三五、一三六、検甲5、証人山田(一回33・40項、二回))及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、車椅子を終生必要とすること、平成三年までに車椅子二台(価格合計四四万四六一七円)を被告らの負担で購入し、同年一一月ころ、三台目の車椅子(価格一七万五六四五円)を公費補助を得て購入(自己負担額一万六五六〇円)し、使用中であることが認められ、将来の買換え時にも公費補助(身体障害者福祉法二〇条一項に基づく交付ないし購入費用の支給)が得られること、同条項に基づく厚生大臣の定め(補装具の種目、受託報酬の額等に関する基準)においては車椅子の耐用年数の目安は四年と定められていることは当裁判所に顕著である。したがつて、右三台の購入に要した費用に、平成七年以降同六〇年(前記余命終期)までの間、四年毎に買換える(一四回)費用中の自己負担額(一万六五六〇円)の本件事故時における現価(ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除)を加算すると、五六万〇七六八円となる。

444,617+16,560+16,560×(0.7692+0.6666+0.5882+0.5263+0.4761+0.4347+0.4+0.3703+0.3448+0.3225+0.3030+0.2857+0.2702+0.2564)=560,768(円未満切捨て。)

(三) 電動車椅子(別紙三3) 〇円

前記認定の後遺障害の内容に、証拠(甲五〇の4、六〇、証人山田(一、二回))及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、外出用に電動車椅子を必要とすること、その価格は一台四七万一八四三円程度であること、平成六年五月現在の外出頻度は月一、二回程度であり、今後の使用頻度は予測し難いことが認められる。一方、原告は身体障害者の認定を受けている(証人山田(一回))から、将来、電動車椅子を購入する際には、身体障害者福祉法二〇条に基づき、その交付ないし購入費用の支給を受けられると考えられるので、少なくとも購入費用の相当額につき自己負担を免れるものと認められる。

したがつて、将来の電動車椅子購入費用を損害と認めることはできない。

(四)シヤワー用車椅子(別紙三4)

七七万〇一三六円

前記認定の後遺障害の内容に、証拠(甲七九、一三五、一三六、一三九、一五三の1ないし3、検甲6、証人山田(二回))及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、前記の移動入浴サービスを受けられる月約三日を除いては入浴が困難であり、シヤワーのためにシヤワー用車椅子を終生必要とすること、平成五年九月ころ、これを一一万八六九八円で購入し、使用中であること、その耐用年数に関する業者の見解は約二年であることが認められるが、原告の使用頻度は明らかでない。したがつて、四年毎に右買換えを要すると認めるのが相当であるから、右購入費用に、平成九年以降同六〇年(前記余命終期)までの間、四年毎に買換える(一三回)費用の本件事故時における現価(ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除)を加算すると、七七万〇一三六円となる。

118,698+118,698×(0.7142+0.625+0.5555+0.5+0.4545+0.4166+0.3846+0.3571+0.3333+0.3125+0.2941+0.2777+0.2631)=770,136(円未満切捨て。)

(五) 担架(別紙三5) 一万七二七三円

前記認定の後遺障害の内容に、証拠(甲五〇の6、六〇、一三五、額六、検甲7)を総合すれば、原告は、療養のため担架を必要とし、平成二年一二月一九日、一万七二七三円で購入したことが認められる。

(六) 介護用バツクレスト(別紙三6) 二万四二〇〇円

前記認定の後遺障害の内容に、証拠(甲五〇の7の1ないし3、六〇、一三五、一三六、検甲8)を総合すれば、原告は、床に坐る際に体を支えるため介護用バツクレストを必要とし、平成三年四月二七日、二万四二〇〇円で購入したことが認められる。

(七) リモコンエイド(別紙三7) 一二万一一二八円

前記認定の後遺障害の内容に、証拠(甲五〇の8、一三五、、一三六、証人山田(二回))及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、美保子の外出(買い物等に一日一時間程度必要なほか、二週間に一回通院を要する。)中、一人で電灯やテレビをつけるためにはリモコンエイド(テレビ及び電気用)を必要とすること、右リモコンエイドの見積もり価格は一五万一四一〇円であることが認められるものの、原告の使用頻度及び耐用年数は必ずしも明らかでない。したがつて、一台分の購入費用一五万一四一〇円のみを損害と認めるのが相当であり、これを平成六年に購入するものとし、ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して本件事故時における現価を算出すると、一二万一一二八円となる。

151,410×0.8=121,128

(八) ハンズフリーヘツドホン式電話受信用(別紙三8)

一万四六二六円

前記認定の後遺障害の内容に、証拠(甲五〇の9の1、2、七九、一三五、一三六、一四〇の1、2、検甲9の1及び2)を総合すれば、原告は、手で受話器を持つことができないためヘツドホン式電話機一式を必要とし、平成五年六月二四日、一万四六二六円でこれを購入したことが認められるが、原告の使用頻度及び耐用年数は必ずしも明らかでない。したがつて、一台分の購入費用一万四六二六円のみを損害と認めるのが相当である。

(九) シヤープワープロ(別紙三9) 一六万九〇〇〇円

前記認定の後遺障害の内容に、証拠(甲五〇の10、七九、一五四、検甲10の1及び2、証人山田(二回))を総合すれば、原告は、手紙等を書くためにワープロを必要とし、平成五年一〇月九日、一六万九〇〇〇円でこれを購入し、装具をつけて手紙や年賀状を書くために使用していることが認められるものの、耐用年数は必ずしも明らかでない。したがつて、右使用頻度に照らし、一台分の購入費用一六万九〇〇〇円のみを損害と認めるのが相当である。

(一〇) フロアーリフト(別紙三10) 四四万三三一二円

前記認定の後遺障害の内容に、証拠(甲五〇の11、七九、一三七、証人山田(二回))及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告の自宅風呂場の出入口には二段の階段状の高低差約三二センチメートルがあるため、シヤワーの際の出入りに困難を伴うこと、フロアーリフトを使用すれば右段差が解消されること、フロアーリフトの購入据え付けの見積もり価格は五五万四一四〇円であること、原告の自宅は公団であるため改造が許されないことが認められるものの、耐用年数は必ずしも明らかでない。したがつて、フロアーリフト一台分の購入費用五五万四一四〇円のみを本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当であり、これを平成六年に購入するものとし、ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して本件事故時における現価を算出すると、四四万三三一二円となる。

554,140×0.8=443,312

(一一) スロープ(別紙三11) 〇円

証拠(甲五〇の12、七九、証人山田(二回))によれば、原告の自宅玄関には数センチメートルの段差があるため、スロープを設置すれば、段差が解消されて、車椅子での出入りに便利となること、スロープの購入設置の見積もり価格は一二万三六〇〇円であることが認められるものの、原告の外出頻度は、前記のとおり、月一、二回程度にすぎないので、右費用は本件事故と相当因果関係ある損害とはいえない。

(一二) 電動介護リフト(別紙三12) 一三九万七〇四五円

前記認定の後遺障害の内容に、証拠(甲一七四の1、2、一七五の1ないし3、検甲12、証人山田(二回))及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、自宅療養開始後、べツドと車椅子との間の移乗等に有用な据置式電動介護リフトを大阪市此花区役所から、購入までの一時期との約定で、無料で借り受けて使用してきたが、平成六年六月一八日ころ、これを六五万円で購入し、使用していること、製造元は耐用年数を八年としていることが認められるが、原告の使用頻度は明らかでない。したがつて、一五年毎に右買換えを要すると認めるのが相当であるから、右購入据え付け費用に、平成二一年以降同六〇年(前記余命終期)までの間、一五年毎に買換える(三回)費用の本件事故時における現価(ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除)を加算すると、一三九万七〇四五円となる。

650,000×650,000×(0.5+0.3636+0.2857)=1,397,045

9 文書作成料(別紙一(8)) 四万〇九三〇円

証拠(甲五六の1ないし4、7、9ないし11、一四八の1、2、一六〇)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故により文書作成料四万〇九三〇円の支出を余儀なくされたと認められる。

10 休業損害(別紙一(9)) 三六四万〇三六八円

証拠(甲一〇、乙五、証人山田(一回))及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成元年一〇月二日から株式会社阪神電気商会に電気工として勤務し、同年一一月分の給与は一二万二一六〇円(一〇月分は八万一六〇〇円、一二月分は四万八〇〇〇円)であつたことが認められるから、本件事故日(同年一二月四日)から平成四年五月二七日(症状固定日)までの休業損害は三六四万〇三六八円となる。

122,160×29+122,160×24÷30=3,640,368

11 逸失利益(別紙一(10)) 五九九一万二四四七円

弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故当時、満一七歳の健康な男子であり六七歳まで就労可能であつたと認められるところ、本件事故の結果、前記認定の後遺障害を残して平成四年五月二七日(満一九歳一一か月であり二〇歳時とみる。)症状固定し、六七歳時まで四七年間、その労働能力を完全に喪失したと認められる。そして、弁論の全趣旨によれば、本件事故がなければ、右の四七年間にわたり平成元年賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・新中卒の二〇ないし二四歳男子労働者の年間平均賃金二七二万六九〇〇円程度の収入を得られた蓋然性が認められる(休業損害算定の際に基礎とした収入月額一二万二一六〇円は就職直後のため低額であつたと考えられるから、右額によることは相当でない。)から、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して後遺障害逸失利益の本件事故時における現価を算出すれば、五九九一万二四四七円となる。

2,726,900×(24.7019-2.7310)=59,912,447

(円未満切捨て。)

なお、被告らは、逸失利益の算定に際して生活費を控除すべきと主張するが、原告が通常人と比較して生活費を要しないことを窺わせるに足る証拠はなく、かえつて、原告は、前記認定の後遺障害により体温調節ができないため、常時エアコンを作動させて一定の温度や湿度を保つ必要があり、多額の電気代を要する(甲六〇)事情が窺われるので、被告らの右主張は採用しない。

12 慰謝料(別紙一(11)) 二五〇〇万円

前記入通院期間、症状及び後遺障害の内容、慰謝料で考慮するとした前記4(二)及び7の各事情、原告は搭乗者傷害保険金五〇〇万円及び障害特別支給金三四二万円を受領していること(乙六、証人山田(一回))等本件に顕れた一切の事情を総合して勘案すると、入通院慰謝料は四〇〇万円、後遺障害慰謝料は二一〇〇万円をもつて相当と認める。

13 物損(別紙一(12)) 〇円

証拠(甲四、一〇)によれば、被害車は、原告所有で時価二〇万円相当であつたこと、同車は、本件事故により、左グリツプ及び左ステツプの各先端並びにカウリング右側の各擦過、左ミラー破損、右ミラー先端の擦過及び曲損の損傷を生じたことが認められる。しかし、右損傷の程度では被害車が全損に至つたと評価することはできず、又、修理費相当損害額を証するに足りる証拠はないから、右物損を認めることはできない。

三  よつて、各損害認定額から前記一の過失相殺(一割減額)を行い、前記争いのない損害の填補額を控除(但し、労災治療費は治療費との関係で、労災障害年金及び国民年金障害基礎年金は消極損害との関係で填補関係に立つ。)すると、別紙五計算書のとおり、残額は一億四〇〇八万八四〇九円となる。

四  弁護士費用(別紙一(14))

本件事案の内容等一切の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当損害額は、八〇〇万円と認めるのが相当である。

五  以上によれば、原告の被告らに対する請求は、一億四八〇八万八四〇九円及びこれに対する本件不法行為の日である平成元年一二月四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 下方元子 水野有子 村川浩史)

〔別紙一~三、五略〕

別紙四 交通事故現場見取図

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